過度の飲酒により多量のアルコールが体内に入ると肝臓はアルコールから変化したアセトアルデヒドを分解できなくなります。
 
アセトアルデヒドは肝細胞を破壊しますが、肝細胞は再生能力があるので肝臓の機能は保たれます。

しかし過度の飲酒を長期間続けると肝細胞の破壊と再生がいつまでも繰り返されることになります。
 
再生と破壊があまりにも長く続くと組織がだんだん硬くなり、繊維化していきます。

肝硬変の症状や治療

繊維化すると肝臓の表面がゴツゴツしたこぶのようになります。これが肝硬変です。肝硬変は肝臓病の終末期といわれています。
 
線維化後は元の肝細胞には戻らず、繊維化した部分は機能しません。
 
繊維化が肝臓全体に広がると肝臓の機能がどんどん低下していき、さまざまな障害だけでなく命を落とす危険もあります。
 

 
肝硬変になって肝機能が低下すると、まず体がだるく、疲れやすくなります。
 
その他食欲不振、むくみや腹水などが起こってきます。また、肝臓がんのほとんどが肝硬変から発生します。
 
繊維化した肝細胞は元には戻らないため、肝硬変になってしまったら対症療法しかありません。「治す」には肝臓移植が必要になります。
 
2008年3月には札幌医科大学の新津洋司郎教授らのグループは「RNA干渉を利用しコラーゲン生成を抑制する手法」を開発しました。
 
肝硬変ラットを使った実験では肝臓が正常な状態まで回復したそうです。実用化されれば非常に画期的なことです。

飲酒による健康障害の男女差 アルコールは女性に”厳しい”

過度の飲酒による健康障害は、男性より女性の方が顕著に出ることがわかっています。
 
毎日5合以上の酒を飲み続けた場合、慢性膵炎にかかるのは男性で10年から20年ですが、女性では7年ほどで発症する場合があります。
 
このため、過度のアルコール摂取による膵炎は、男性は50歳代が多いのに対して、女性は40歳代が最も多くなっています。
 

 
逆に、飲酒から得られる恩恵を考えてみると、男性の方が多く、女性は少ないという研究結果があります。
 
イギリスで50~65歳の人5万人を対象に行われた研究では、
 
・毎日1~2杯ずつアルコールを摂取する男性は心臓病のリスクが41%低下する
・一週間に一度飲む男性の心臓病リスク低下は7%程度

 
といったことがわかっています。
 
つまり、男性は毎日飲む人の方が心臓病のリスクが低い、ということになるのです。
 
反面、女性では
 
・一週間に一杯飲酒する女性は、全く飲まない女性に比べて心臓病のリスクが36%低い
・しかし、女性ではそれ以上の頻度で飲んでもリスクは低下しない

 
のだそうです。
 

 
このような結果が出ていますが、英国の心臓財団は「飲まない人が心臓病のリスクを下げるべくわざわざ飲み始める必要は無い」とコメントしています。
 
またやっかいなことに、お酒を全く飲まなくても肝臓を悪くするケースがあるのです。(次の記事をご覧ください)
 
このケースでは、内臓脂肪がキモになります。

お酒を飲まなくても肝炎や肝硬変 NASH

ここまで紹介してきたように、過度の飲酒を続けていると肝炎から肝硬変、さらには肝がんを発症させてしまいます。
 
こう書くと「それなら自分は酒を飲まないから、肝臓の病気は心配しなくていいな」と考えるむきがあるかもしれません。
 
しかし、お酒を全く飲まない人でも肝炎などを発症することがあるのです。
 
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それは「NASH(ナッシュ)」と呼ばれる症状で「非アルコール性脂肪肝炎」と訳されます。
 
アルコール摂取が無くとも肝炎を発症するわけですが、その主な原因は脂肪肝と考えられています。
 
NASHでは脂肪肝から肝細胞の炎症・線維化が始まり、肝がんにまで進行することが確認されています。
 
病態としてはアルコール性の肝炎と同じですが、アルコール性ほど進行は早くありません。
 

 
アメリカでは成人の3%、日本では1%の人がNASHにかかっていると考えられています。

NASHの特徴と予防法

NASHが疑われる特徴には次のようなものがあります。
 
・肥満体である
・肝機能障害は見られない
・アルコールの摂取量は一日20g以下
・血液検査でGPTが(GOTより)高い状態が半年以上続く

 

 
NASHを予防するためには、肥満解消がポイントになります。内臓脂肪が多い場合は特に注意が必要です。
 
NASHになった場合でも、体重を3~5kg 落とせば症状が改善するといわれています。
 
お酒を飲まなくても肝臓を壊すことがあることは、ちょっとした盲点かもしれません。
 
内臓脂肪は万病のもと、と言えそうですが、内臓脂肪は減らしやすい特徴があります。筋トレと有酸素運動を組み合わせて内臓脂肪を燃焼させましょう。