近年は市民ランナーの数が増え、フルマラソンに挑戦する人も少なくありません。
 
冬の終わりごろから春にかけては各地でご当地マラソンも開催されています。

2011年ごろから注目されている「フォアフット走法(つま先着地走法)」はご存知でしょうか?
 

 
従来のランニングの「常識」とは少し違う走り方で、マスターすれば記録が伸びるだけでなく、故障も少なくなるそうです。市民ランナーでも実践者が少しずつ増えているのだとか。
 
このコンテンツでは雑誌「ランナーズ」2011年12月号(Amazon・レビューあり)36~39ページを参考に、フォアフット走法のさわりを紹介します。




フォアフット走法の特徴と効果 無駄なく故障リスクも低下

フォアフット走法(以下 F走法と略)の最大の特徴は
 
「かかとからではなく、前足部(つま先側・フォアフット)から着地する」
 
ことにあります。
 
従来の走り方は、かかとから着地するたびにゴツンとブレーキをかけた後、前足部で地面を蹴って前進していました。エネルギーの無駄が生じているのです。
 
F走法では前足部だけで走るため、「かかとブレーキ」がかかりません。運動効率が良いため、長距離をよりラクに、速く走れるようになるのです。
 
しかも、正しいF走法であれば故障リスクも少なくなるそうです。
 

 
F走法はどれほどスゴいのでしょうか?
 
2011年9月のベルリンマラソンで、2時間3分38秒の世界記録を出したケニアのパトリック・マカウ選手の走りはF走法です。
 
また、「スロージョギング入門」(Amazon)などの著書があり、F走法指導の第一人者である田中宏暁(たなか ひろあき)福岡大学スポーツ科学部教授は、50歳でフルマラソン2時間38分48秒(←!!)の自己ベスト記録を持っています。
 
田中教授によると、「意識と根気さえあれば、どんなビギナーランナーでもできるようになる」そうです。
 
F走法を実践しているランナーのコメントを紹介します。

フォアフット走法で走ったランナーの感想「脚がつらなくなった」など

「ランナーズ」には、F走法で走ったランナーの感想もあります。
 
一部を紹介します。

「フォアフット走法は、ブレーキがかからないためかペースの上下動が少ないので、1度ペースを決めてしまえば自然とイーブンで走れるのがメリット」
 
「明らかな変化は、マラソン終盤でふくらはぎがつらなくなったこと。かかと着地の頃は、毎度のごとく35km付近で軽いけいれんを起こしていたのですが、それがなくなりました」
 
「フォアフットは弾む感覚を身につけやすく、併せて筋力トレーニングやジャンプ系のトレーニングを行うことで、ストライドが伸びてランニングエコノミーの改善につながりました」
 
「平地でのジョグであっても、上り坂を走ったときのように、お尻やハムストリングスにしっかりと筋肉疲労が残る」
 
「1度ペースをつかむとイーブンを楽にキープでき、「どこまでも走っていけそう」な感覚で飛ばしていたのだが、20kmを過ぎたあたりから急に、お尻や脚にまったく力が入らなくなってしまった。
 
(中略)
 
私の場合、フォアフット走法では『あなたの実力だと、ここまで!』といった感じで、突然、終わりが訪れた」
 
「フォアフット走法で行けるところまで走って、力尽きたら、シューズのかかとの衝撃吸収機能の助けを借りつつ粘るのが最近の私の作戦」

フォアフット走法に興味のある方には参考になるのではないでしょうか。

フォアフット走法の練習法と注意点

それでは、具体的にどうすればF走法で走れるのでしょうか?
 
まずは注意点を。
 
上で「つま先側で接地する」と書きましたが、もちろん「つま先」で着地するわけではありません。
 
正確には、
 
拇指球と小指球を結んだライン上、いわゆる「中足部」で着地
 
します。
 

 
これをおさえた上で、F走法を練習する際に田中教授が「意識するべきポイント」として挙げているのは次の二点です

  • 足首を固定し、フォアフットで着地→地面から反発力をダイレクトにもらう
  • 地面を蹴るのではなく、体重を乗せてプッシュ 素早く脚を前方に振り出す→バネのホッピングを生かす

 
田中教授はF走法を以下のように指導されています。

■まずは走り出す前に、縄跳びを飛ぶように両足をそろえてジャンプし、かかとを着けない着地感覚をつかむ

■その感覚を保ったまま、身体を真っすぐな1本の電柱とイメージし、斜め前に倒す(自然と前進する)

■着地点と胴体と頭が一直線上になり、地面からの反発力をダイレクトに得られ、無理なくF走法になる 

 
これは頭で理解するだけでなく、外に出て実際にやってみないことには身につきません。
 
細かい注意点を挙げます。

・歩幅は小さく あごは引かずに上げる(これはかなり意外ですね) 
 
・地面を蹴らず、体重を乗せてプッシュする
 
・これまでの走り方とは違うため、F走法に体を慣れさせる意識が必要
 
・ふくらはぎに痛みを感じることがある
 
・それでも無理しない程度にF走法を続ける(2~3週間)と、体にバネが付くのでほぼ自然にF走法になる
 
・痛みを感じる間は、走行距離やペースは若干落とす
 
・大切なのは、意識と根気

 
これまでとは違う負荷が体にかかるわけですが、無理をせずしばらく続けるのがポイントのようです。

適したシューズとF走法による身体の変化

F走法は底の薄いシューズだとやりやすいですが、底が厚めでも十分可能です。田中教授も、当初は従来の厚底シューズを履いてF走法で走っていたそうです。
 
「動作の途中でかかとが着くことに神経質になる必要はなく、『前足部から着地』『地面を蹴らずにプッシュする』という、脚運び全体の流れに意識を置くことが大切」としています。
 
F走法が身につくと、身体にこんな変化が起きます。
 
・長距離走っても、ふくらばきのつりや痙攣が少なくなる
・かかと着地の時よりも、正面から見た脚が細くなる
・故障が少なくなる

 
F走法においては、靴底の厚さはそれほど気にしなくてもOKなようです。
 
とりあえずはいま使っているシューズで実践してみてはいかがでしょうか。

F走法は「あくまでイメージ」?実際にはかかと着地も 小田伸午教授

ここまでフォアフット走法について紹介してきました。
 
一般ランナーの間でも大きな話題になり実践する人も増えていますが、ここで興味深い指摘も紹介しておきます。
 
関西大学の小田伸午教授は、雑誌ランナーズ 2012年07月号の「フォームの誤解に要注意」という記事で次のように解説されています。

ランニングフォームに対する主観と客観では差がある
 
かかと着地を意識しすぎるあまり、着地期の重心移動がスムーズにいかなかったランナーが、フォアフット走法を意識するようにしたところ、着地期の重心移動がスムーズになる場合があります。
 
それを体験した人は、かかと着地よりフォアフット着地がいいと推奨します。ただしこの場合も、客観的にはかかとから着地していることがほとんどです。
 
近年のフォアフット着地の推奨は、主観的なイメージの推奨であって、実際に前足部から着くのが良いという客観的理論ではないと私は考えます。

つま先側で着地しているつもりでも、実際には(そう考えているだけで)かかと着地ということもありうる、というわけです。
 

 
自分では何らかのイメージを持って走っていても、客観的に見るとそのイメージ通りのフォームでないことはあります。(これはランニングに限りませんが)
 
それでも、管理人としてはフォームや記録が改善している、あるいは故障が減っているならOKと考えています。
 
フォーム改善を意識している方は、小田教授の考え方も参考にしてみて下さい。
 
これからの長距離走大会に出場する方のみならず、「ちょっと走ってみようかな?」と考えているあなたもフォアフット走法をチェックしてみてはいかがでしょうか。