年間200例の心臓バイパス手術を執刀し「ブラックジャック」と呼ばれる、南淵明宏医師の「ブラック・ジャックになりたい君へ(レビューあり)」を読んでみました。
 
「漫画エッセイ(?)」と呼べそうな本なので、ページがスイスイ進みます。
 
健康問題に関心のある私ですが、心臓外科という専門分野は何も知らないので、興味深く読めました。

「へぇ~」と強く感じた箇所を抜粋して紹介します。

医者から好かれる医者になりたいのであれば、僕は参考になることを言うことはできない。なぜなら、僕自身、医者から好かれる医者ではないからだ。日本で一番同業者から嫌われている心臓外科医の一人だと思う。
 
 
ただ、僕自身は、医者から嫌われる医者になれれば本望だと思っている。僕の尊敬する心臓外科医の一人に、世界的に有名な須磨久善先生がいるが、かつて須磨先生から、
 
「南淵君、同じ仕事をしている心臓外科医から、『いい人』と言われるようになったらダメだよ。『いい人』の前には『どうでも』が付くんだから」
 
と教えてもらったことがある。
(27ページ)

はっきり言って、僕は、世界標準から見れば、ごく標準レベル、ふつうの心臓外科医だと思う。
 
日本では、心臓バイパス手術を二時間でやると「神技だ!」と周囲に驚嘆され、年間200例の手術をすると、「すごい、奇跡だ!」ともてはやされる。
 
しかし、これらは海外では当たり前の最低基準でしかない。
 
(中略)
 
これが何を意味しているのかと言えば、おそらく、日本の大多数の心臓外科医のレベルが世界水準にはとうてい及ばないことを表しているのだろう。
(55ページ)

僕の実感からすると、一回目の手術よりも、1001回目の手術のほうがはるかに怖かった。
 
「昨日まではすべて成功したけど、今日はもしかしたら、何かとんでもない事態が起こってしまうかもしれない」という気持ちになるものだ。
(67ページ)

「弱い犬ほどよく吠える」と言われるが、「下手な外科医ほどよく怒鳴る」というのも、また真実。
 
(中略)
 
怒鳴れば、現実の状況は間違いなく悪化する。助手も看護師も不愉快な思いをし、やる気をなくし、人間関係も一気に崩れる。
 
これでは良い結果につながるはずはない。
(95ページ)

何かシリアスな箇所ばかり抜粋してしまいましたが、実際はユーモアにあふれた本です。
 
肩の力が抜けて軽い感じでありながら、仕事への真摯な姿勢・厳しさが伝わってきます。
 
一流と呼ばれる人の仕事への意識がどういうものか、医師を目指している人以外にも参考になる本です。