2012年4月から始まった中学校での武道必修化では、柔道の危険性が指摘されました。
 
少し前の記事ですが、2012年3月7日の九州スポーツ新聞に、全国柔道事故被害者の会などによる、危険性・問題点の主張がまとめられています。

記事の要点をまとめます。

九州スポの記事と岡田弘隆准教授のご意見

■28年間で114人の中・高校生が柔道の練習中に死亡している
 
■この114件の死亡事故で、管理責任者が起訴された事案は1件もない
 
■学校により隠蔽されている事故も多いと考えられる
 
■柔道経験の無い教師が指導するケースもある
 
■柔道の授業のために行われる研修が二日間だけなのは不十分
 
■武道の授業は年間13時間しかない
 
■安全対策に対する政府の統一見解が出ていないので、柔道の指導内容が自治体ごとにバラバラ(例:名古屋では投げ技をしないが、九州では投げ技も教える、など)
 
■柔道の競技人口が日本の3倍のフランスでは、未成年の死亡事故は一度も起きていない
 
■フランスの指導者には、大学卒業資格のほか、医学・運動生理学などを含む380時間の講習受講が必須条件

 
フランスが柔道の指導にこれほど力を入れているとは知りませんでした。
 
 
次に、実際に中学生を指導し、柔道教育の専門家である筑波大学大学院の岡田弘隆准教授のご意見を紹介します。「九スポ」さんとの問答形式です。
 
以下、敬称は略致します。
 
岡田 ケガばかりが報道されているが、柔道をやることのメリットのほうが大きい。体力の向上。受身をマスターすれば、転倒時にケガを防げる。競技で勝ったときのうれしさ、負けたときの悔しさを味わえる。礼法など、日本の伝統的な運動文化に触れられる。
 
 しかし、死亡事故などが起きているのも事実
 
岡田 まず、部活動の柔道と授業の柔道を区別して考える必要がある。重大事故は部活動で起きていて、こちらは本当に改善しなければならない。しかし、授業で教える柔道は、一定の条件下であれば、重大事故につながることはない。これは断言できる。
 
 具体的には?
 
岡田 投げ技は投げ込みのみ全員にやらせる。乱取りはレベルに達した者のみ行わせる。受身と寝技(絞め技、関節技は禁止)の練習を中心に授業を組み立てる など
 
 柔道未経験者が指導できるのか、という疑問については?
 
岡田 体育教師は元競技者でなくとも、バレーボールや陸上などを教えている。全くの柔道未経験者であれば無理だが、体育を専門に学んだ体育教師が柔道の講習を受ければ問題は無い。実際、筑波大学の学生には二日間、2時間ずつの計4時間で中学生に教えられるレベルに達している。教師がどうしても不安なら、町道場の先生や経験者、柔道部の生徒を有効に活用すればいい。
 
最も注意しなければならないのは、技ができるようになって、教師の目が届かない授業前後に、ふざけてかけ合うこと。そこで事故が起きる可能性はある。
 
(記事で岡田准教授の発言は敬体で書かれていました)

高尾淳氏 小川直也氏・古賀稔彦氏の考え

武道必修化に伴う柔道の授業において、現時点で不備と考えられている点などを、柔道界の著名人にインタビューされていました。
 
 
高尾 淳 教諭(茨城県内の中学・高校で20年間柔道指導の経験あり)
「授業が部活動と違って難しいのは、全く興味のない生徒や荒れている生徒、理解力の劣る生徒などにも教えなければならないこと。『安全にやれ』という指導も聞いていない。それなら、まずは安全な環境を整えることも重要。
 
 
小川直也氏
「運営している道場では、柔らかい畳を敷き、その下にはバネが入っている。施設面の充実を図ることで重大事故は防げる。吉田秀彦氏など、著名柔道家が全国をまわって柔道の良いところを知らせるなど啓蒙活動を行うのも良い」
 
 
古賀稔彦氏
「技どうこうより、加納治五郎先生の「自他共栄」の教えを伝えることの方が大切。13時間で生半可に柔道を教える方が逆に危険。受け身と「教え」だけでいい。

管理人の考え

管理人の意見を書かせて頂きます。
 
私としては、武道必修化には全面的に賛成です。
 
そして、危険だ危険だと騒ぎすぎの印象があります。世の中、危険でないことなどありません。通学ですら交通事故の可能性があるではないですか。
 
 
私は「危険性が指摘されているから、やらせない」というのは間違っていると思います。大事なのは、子供がその危険性を認識して、未然に防ぐ行動ができるよう指導することです。
 
こうした話題では、指導者側がいかに注意するか、ばかりが強調されます。
 
確かにそれも大事ですが、同時に、生徒側も危険性への意識を喚起する必要があるはずです。
 
「こういう倒れ方は危険」
「絞め技、関節技をどのようにかけると、どのような結果を引き起こすか」
「ふざけて技をかけると大ケガをすることもある」

 
などをしっかり教えれば、中学生くらいの年齢になれば十分自覚できます。
 
 
文科省は「大外刈りをかけない」などの安全指針を通知するようですが、私は大外刈りを指導して何も問題ないと考えています。
 
大外刈りが危険だと言うなら、その危険性を生徒に自覚させれば良いのです。