歌手で俳優の井上順さんは、十数年前、「周囲の人の声や音がずいぶん小さい」と違和感を感じるようになりました。
 
芝居や映画を観に行ってもセリフが聞こえにくく、隣の人に「声が小さくないですか?」と度々尋ねていたそうです。

ドラマの仕事で台本の読み合わせをしても、「なんでみんな声をもっと出さないの?」と思っていました。
 
人と会話しても言葉が聞こえにくく、コミュニケーションがとれないこともしばしばあり、ついにある日友人から「一度診てもらったほうがいいよ」と指摘されました。
 
(このコンテンツは雑誌きょうの健康 2014年5月号103~105ページを参考にしています)
 
医師
 
耳鼻咽喉科を受診したところ、左右の耳が「感音性難聴」と診断されました。内耳の聴神経の不調により起きる難聴です。
 
これは50歳半ばごろの話です。
 
医師の説明によると、発症の原因は
 
・耳の酷使
・加齢

 
でした。
 
井上さんが歌手として歌い始めた当時は音響設備も整っておらず、スピーカーから流れる大音量の音を聴き、それと競い合うように歌っていました。
 
また、歌を覚えようと必死だったため、曲の流れるヘッドホンを耳に当てたまま寝てしまうこともあったそうです。
 
こうした長年の習慣が耳に多大な負担をかけ、難聴を招いてしまったのでした。
 
残念なことに、医師から「治療法はなく、治すことはできません」と告げられてしまいます。
 
井上さんは愕然とします。音感には自信もあったので、悔しく、悲しかったそうです。
 
一時期落ち込んでいた井上さんですが、
 
「このままではダメだ。体は元気なのだから、前に進まなくては」
 
と奮起します。
 
井上さんの聴力は50デシベルくらいで、医師からは補聴器の使用を勧められました。
 
補聴器をつけることに抵抗感は全くなく、さっそく耳の穴にすっぽり入るタイプを使ってみたところ、音が実にクリアに聞こえ、
 
「世界がパーッと開けたみたい」
 
に感じました。
自分がいかに聞こえにくい世界にいたのかも実感したそうです。
 
ヘッドホンで音楽を聴く女性
 
芝居や映画でも「これだよ!聞こえていた声、音は!」と感激し、以前のように楽しめるようになりました。
 
補聴器のおかげで、日常生活で不便なことは非常に少なくなりました。
 
ただし、ステージでは音がねじれたように聞こえることもあり、特に歌い出しの音がとりにくくなります。
 
そんな時はコーラスやバンドの仲間がフォローしてくれます。そのおかげで歌に踊りに全力投球できています。
 
ドラマや映画の現場でもスタッフがサポートしてくれるので仕事の進行に支障はありません。
 
「難聴になり、人のやさしさが深く心にしみるようになった」そうです。
 
オペラ歌手、マリア・カラスは耳を患った際、モーツァルトを聴いて回復したという話を聞き、井上さんも朝や自動車での移動中にモーツァルトを聞いています。
 
気功や鍼治療、マッサージも続けているので、その後難聴は悪化していません。
 
「きっとよくなる」という希望を持ち続けています。
 
毎朝6時に起床し、ストレッチや腹筋、腕立てふせなどの運動を20分ほど行います。その後はベランダに出て、タップダンスの練習。
 
ずっと続いてる習慣です。
 
井上さんは「長生きしたい」そうです。
というのも、
 
「80歳、90歳になることは、未知との遭遇。まだまだ自分の知らない楽しいことがいっぱいあるに違いない」
 
とワクワクしているからです。