このコンテンツでは、「暮らしの健康ことわざ辞典西谷裕子編」を参考に、健康ことわざをまとめます。
 
この本を読むにあたって、意識していたことがひとつあります。
 
それは
 
たくさん食べること(大食い)を推奨することわざはあるのか?
 
ということです。

例えば、「食べる子は育つ」といった言い回しがあるのかどうか、チェックしながら読んでみたのです。
 
通読してみたところ、私としては・・・
 
「大食いを推奨したことわざは無い」
 
と結論づけました(私が見逃していなければ)。「食べる子は育つ」もありません。
 
かろうじてそれらしいかな?と思うものは
 
・パン屋へ行くほうが医者へ行くよりまし
(同じお金を使うなら、おいしいものを食べて健康に過ごした方が良いフランスのことわざ)
 
・病は食い勝つ
(病気になったら、薬をあれこれ飲むよりも栄養のある食事をとる方が良い)
 
くらいです。
 

 
反面、食べすぎや食べ方、食べるものを戒めることわざはたくさんあります。
 
・食わずに死なんで食い過ぎて死ぬ
 
・小食は長生きのしるし
(小食とは少食のこと)
 
・腹八分目に医者いらず
・節制は最良の薬である
・大食短命
 
・飽食暖衣は却って命短し
・重荷を持つとも大食いするな
・暴食は剣よりももっと多くの人を殺す(西洋のことわざ)
・軽い夕食は寿命を長くする(同上)
 
・美食は短命
・砂糖食いの若死に
 
・味の厚きは毒
(味付けが濃厚なもの、味が濃いものは身体に悪いということ)
 
・帝王病は美食家に多し
(帝王病とは痛風のこと)
 
・早食いすると早死にする
・柔らかい物でも二十七度噛め
 
・夜食の大食らいで墓場は満員(ポルトガルのことわざ)
・百人の医者を呼ぶより、夜更かしと夜食をやめよ(スペインのことわざ)
 
・寝る前に食べるのは毒
 
・・・などなど。
 
「初めて聞いたよ」ということわざもいくつかあったのではないでしょうか?
 
洋の東西を問わず、「大食を戒め、何を、いつどのように食べるか」は昔から人類共通で意識されていた健康法だったことがわかります。
 
お酒も飲みすぎはいけない、ということで、
 
・飢えて死ぬは一人 飲んで死ぬは千人
 
という言葉もあります。飢え死にするより、お酒の飲み過ぎで身体を壊し、亡くなってしまう人が圧倒的に多い、という意味です。「お酒を飲むなら適量を」というわけです。
 
食べ物のことわざには、季節にまつわるものが有名です。
 
・秋茄子嫁に食わすな
 
はその筆頭と言えます。
 
「秋ナスは美味しいので嫁には食べさせるな」という嫁いびり
「秋ナスは身体を冷やし、種が少ないので子宝に恵まれなくなる」という嫁への思いやり
 
の正反対の解釈があることも知られていますね。
似たような例に
 
・秋山へ嫁をやるな
・秋の秋刀魚は孕み女に見せるな
 
ということわざもあります。前者は「秋ナス」と同じように、
 
「秋山でとれるキノコや木の実は美味しいので嫁には食べさせたくない」
「秋の山でとれるキノコや木の実は子宮によくない」
 
と対立する解釈があるそうです。
 
後者は「秋のサンマは美味しいので、ただでさえ食欲が旺盛な妊婦に見せると食べ過ぎてしまう」という意味です。こちらは「嫁いびり」ではないようで。
 
・土用の丑に鰻
 
はもはや習慣になっており、これに関連して、
 
・土用の丑の日に泳ぐとその夏あせもが出ぬ
 
ということわざがあるそうです。
土用の丑の日は夏でも暑さが厳しいので、泳いで汗を流すとあせもができにくいことを言っているようです。
 
・土用の丑の日に泳ぐと風邪ひかぬ
 
とも言うようです。
 

 
・にんにくを焼いて毎日一つずつ食べると長生きする
疲労回復や滋養強壮に効果がありますが、食べ過ぎは腸内細菌の繁殖を抑えてしまいます。生で大量に食べると胃を傷めるおそれもあります。
 
・鮮度の落ちた刺身でもにんにく醤油で食べると中毒しない 
にんにくに殺菌作用があるのは確かですが、過信は危険です。鮮度が落ちた刺身は、食べないか、火をよく通して食べるべきです。
 
・大根おろしの残りは虫がわくので食べるな 
実際に虫がわくことはありませんが、おろしたての方が美味しいですし、時間が立つと色が変わってしまいます。
 
・梅干しを産後二十一日間食べると肥立ちが早い 
梅干しに含まれる成分により、お産後の疲労回復が早まることを言っているようです。
 
・梅干しを食べるとコレラにならない 
コレラ菌が酸に弱いことは事実ですが、梅干しがコレラを100%防ぐ保証はありません。
 
・腹痛には梅干しの黒焼きが効く 
実は、特筆するような効果は無いようです。
 
・冬至にゆず湯に入ると風邪をひかぬ 
迷信と言ってしまえばそれだけですが、柚子湯に体を暖める効果があり、湯冷めしにくいのは確か。季節の節目に「これから寒くなるから、風邪には注意しよう」と意識する、よい契機になるのではないでしょうか。
 
・米をこぼすと目がつぶれる 
「米一粒汗一粒」とも。お米は農家の皆さんの苦労の結晶です。粗末にすると罰が当たります。
 
飲食店でバイトしてると、お茶碗にご飯粒を残す人を少なからず目にします。ぜんぶきれいに食べると、お米も喜ぶような気がするのですが。
 
 
「お通じは快適に」を表した言葉もあります。
 
・食うものと飲むものは出るがよい
・二便は早く通じて去るべし(貝原益軒の養生訓より)
・大便をしばしば忍べば気痔(きじ)となる(同上)
 
「二便」とは大便と小便、「気痔」とは痔のことですね。三番目のことわざは「排便を我慢すると便が固くなり、痔になるよ」という意味です。いずれも快便の大切さを説いています。
 
 
目に関して、へぇ~と思ったことわざに
 
・目やにの出る眼疾はよい
 
があります。目やにの出る眼病はそれほど悪質でない、という意味です。(とはいえ結膜炎のように、目やにが大量に出る場合はやはり診察を受けるべきですが)
 
そう言われると、白内障や緑内障は目やには出ませんが、いつの間にか進行して失明する可能性もあり、確かに悪質と言えます。覚えておくと、意外に使えそうなことわざです。
 
 
薬の使い方を戒めたものとしては
 
・薬多ければ病甚だし
・薬から病を起こす
・薬も過ぎれば毒となる
 
があります。いずれも「薬は適切に使いましょう」というわけですね。
 
 
「食べ物と医者」シリーズ(?)では
 
・トマトが赤くなると医者が青くなる
(ヨーロッパのことわざ)
 
・一日一個のリンゴは医者知らず
(これもヨーロッパ)
 
あたりは有名ですね。
他にも次のようなことわざもあります。
 
・酢とレモンは半ば外科医
(酢とレモンをいつも食べていると、外科手術が必要になるような大病にかからなくなるというポルトガルのことわざ)
 
・大根時の医者いらず
(「大根好きの医者いらず」「大根が出回ると医者は田舎に帰る」とも)
 
・秋刀魚が出ると按摩が引っ込む
(サンマが出回るころは気候が良くなり、またサンマは栄養価も高いため、按摩にかかる人も少なくなる)
 

 
今回まとめたことわざは以上です。
 
こうして見てくると、かなり昔にできたことわざが、現代でも全く違和感なく教訓として生きているのがわかります。
 
今回参考にした「暮らしの健康ことわざ辞典 西谷裕子編」は索引もついており、使いやすい本です。機会があったらご一読あれ。